起業

米国仮出願のすすめ!

アメリカでは、ほとんどの大学やスタートアップ企業が仮出願制度を利用して最初の特許出願をしている、ということをご存知でしょうか?

私が定期的に情報交換しているアメリカの某州立大学の技術移転担当者によると、TLO(技術移転オフィス)が取り扱う特許出願の90%以上が仮出願からスタートするということでした。ちなみに、この大学は特許のライセンス収入ラインキングで常に全米トップ10以内に入っていて、アメリカでも大学の技術移転の成功事例として頻繁に取り上げられている大学です。

仮出願とは?

米国仮出願(U.S. Provisional Application)とは、出願日から1年以内に本出願を行うことを前提に先願の地位を得られる米国特有の制度です。特許出願の準備が整っていなくても簡易な出願方式で文字通り仮の出願ができ、さらに、優先権の基礎となる出願として「特許ペンディング」の地位を得ることができるというものです。

仮出願の主なメリット

・早い:いち早く出願日を確保できます。パリ条約に基づき米国仮出願を基礎とする他国への優先権主張出願が可能となります。

・安い:本出願に比べて安価で出願できます。1件あたり最低200ドル〜です。

・簡単:簡易な出願方式、かつ日本語で出願できます。クレームの記載が必要無く、明細書としての記載方式を整える必要がありません。例えば、研究報告書や論文、PPTスライドをそのまま仮出願できます。

仮出願の戦略的な活用

では、技術移転や知財の活用という観点から見た場合、これらの仮出願のメリットをどう活かしたら良いでしょうか。典型的な仮出願の活用方法は、潜在的な特許権の優先日を確保しつつ、本出願までの1年間の猶予を利用して発明のプレマーケティングやスポンサー探しをするという使い方です。つまり、発明者または権利者である大学は、仮出願を使うことで特許出願(本出願)に必要な手続きと主要な特許出願費用を先送りしつつ、自らの発明の市場性や商業的な実行可能性の検証が可能になります。

私たちJTGが実践し、お客様に提案しているのは、仮出願+プレマーケティングをあらかじめ技術移転活動に組み込むという戦略的な仮出願の活用です。仮出願後の1年間をプレマーケティング期間として、あまり費用をかけずに発明の有効性や研究開発の方向性を見極め、その結果に基づき特許戦略の立案や修正、さらに本出願の可否判断をするのです。このプレマーケティングの結果、将来のライセンス先の特定や共同研究資金の調達などの具体的な成果につながる場合もあります。一方、出願の断念や先送り、研究計画の大幅な見直しなど特許出願や技術移転活動をペンディングせざるを得ない結果となることも多々あるのも実情です。いずれの場合も、本出願前の早い段階で研究開発や技術移転戦略において有効な情報を収集し、市場性や第三者による客観的な評価に基づく意思決定を可能にする、という点において仮出願は非常に有効な手段であると思います。

アメリカでは成果が出ている!

AUTM(大学技術管理者協会)が実施したアメリカの大学187校を対象としたライセンシング調査*によると、2014年〜2018年の5年間で、毎年平均約11,000件の仮出願がなされ、この間の仮出願からの特許権取得の割合は約67%という結果が報告されています。また、2018年のデータを見ると、ライセンス収入の平均は1校当たり約16億円となっており、これら187の大学から約1000社の新規のスタートアップが起業しています。積極的かつ有効に仮出願を利用しているアメリカの大学は、ライセンス収入と新規のスタートアップ数という技術移転活動のKPI(重要業績評価指標)においても、優良な数字をあげてしっかり成果にもつながっているということがわかります。(参考:日本の主要国公私立大学を含む学術研究機関109機関の2018年度のライセンス収入の平均は、約0.33億円/1機関です。)

仮出願のすすめ!

日本においても、アメリカ含む国際出願を前提とした発明において仮出願を活用する事例が増えてきています。将来的にグローバル市場に向けた事業化や起業を目指すという発明家や起業家、技術開発型企業の方々、国際的な技術移転を視野に入れた発明ポートフォリオを持つ大学の知財部や技術移転担当者の方々は、この仮出願の活用を今一度検討してみてはいかがでしょうか。

仮出願の活用についてご興味がある方は是非お問い合わせください。私どものこれまでの経験や専門性を踏まえて、お手伝いができることがあるかと思います。また、ご質問やご意見などありましたら是非ご連絡ください。

米国仮出願制度を活用した特許戦略により、革新的な研究開発が促進され、知財活用の道が更に拡がることを期待しつつ、今回はこの辺りで失礼します。

・お問合せやご質問はこちらです。

・Keisen Associatesの米国仮出願サービスはこちらです。

*AUTM FY2018 US Licensing Survey

大学が学生起業家を育成! 『Lassonde Entrepreneur Institute (University of Utah)』訪問記

 2020年が始まった早々の1月上旬、冬真っ只中のアメリカ・ユタ州ソルトレイクシティにあるユタ大学を訪問した。目的は、アメリカ国内でも注目されている大学が学生向けに起業家プログラムを提供する『Lassonde Entrepreneur Institute』を見ることである。どちらかというと田舎、とも言えるユタ州の州立大学が一体どんな取り組みをしているのか?という正直なところ半信半疑の中での訪問であった。

 ユタ大学の『Lassonde Entrepreneur Institute』は、同大学のDavid Eccles School of Business(ビジネススクール)との連携で2001年にスタートした米国内でも有数の学生向けの起業家育成プログラムであり、地域のインキュベーションハブである。このプログラムが凄いのは、その実績。2019年度1年間にこのプログラムに参加した学生は3400人、そのうち起業準備中のスタートアップは500を超える。

 プログラムには、ワークショップやネットワーキングイベント、事業計画コンペティション、スタートアップサポート、イノベーションプログラム、さらにプログラム独自の奨学金の提供などが含まれる。また、この機関の大きな特長は、”Lassonde Studios“と呼ばれる5階建の建物である。1階が広大なコミュニティスペースとなっており、2階から5階までの4フロアーは学生の居住スペース、いわゆる学生寮となっている。各階100名が定員で合計400名の学生が寝泊りしながら、起業家プログラムを学ぶことができる。

 このプログラムの創始者であり大学の学長補佐を兼任する当InstituteのExecutive DirectorであるTroy D’Ambrosio氏によると、この“Lassonde Studios”への入寮希望者は毎年1000人を超えており、厳正な審査の上入寮者を選抜しているとのこと。1Fにある”Neeleman Hanger”と名付けられたコミュニティスペースには、自由にネットワーキングやミーティングができるラウンジとコワーキンスペースの他、学生がプログラムの一環として運営するカフェやフードトラックがあり、入寮者だけでなく学生であれば誰でも行き来できるオープンなスペースとなっていた。特に目を引いたのは“Makers Space”と名付けられた、試作室。様々な工具や3Dプリンター、レーザーカッターなど、物づくりで起業を目指す学生たちが自由に試作や実際の製品作りができる設備が整っている。ここで製作したバックパックの試作品を基にクラウドファンディングで資金調達して起業したスタートアップ事例の紹介もあった。

 Instituteが提供する”FOUNDERS“というプログラムを通じて、学生はこのStudiosで生活しつつ、ビジネススクールが提供する起業家プログラムを受講できる。プログラム参加者は奨学金を受けつつ、起業家プログラムの単位を取得できるようになっている。また、”GetSeeded“は、ユタ大学の学生であれば誰でも申込みが可能な毎月実施される起業資金の助成プログラムである。申請した学生は数回に及ぶピッチコンテストを通して評価され、起業資金として最大$2,500を獲得できる。このプログラムは地元ソルトレイクシティの銀行Zion Bankがスポンサーとなり資金提供している。

 「今でも、全米中から見学者が絶えない」と語るD’Ambrosio氏。彼のリーダーシップのもと、Instituteは2012年からの7年間で$132Million(約145億円)の資金を獲得している。元々は大手製薬企業のビジネスマンであった彼は、「プログラムを永続させるためには大学施設であってもビジネスモデルが必要」との考えから“Lassonde Studios”を建設したという。今では、400名分の年間の寮費でスタッフの人件費を含むこの施設全体の運営費を賄っているとのこと。

 「Live, Create, Launch(生活し、創造し、立ち上げる)」というキャッチフレーズ通りに、これからもこのユタの地から多くの学生起業家たちたちが巣立って行くことを期待しつつ、短い訪問を終え、、空港に向かった。

Lassonde Entrepreneur Institute: https://lassonde.utah.edu

Lassonde Studios: https://lassonde.utah.edu/studios