Mitsu Yamamoto

【解説】高市内閣が導く「安全保障直結型」知財戦略の全貌

自民党の圧勝と高市内閣の発足を受け、日本の知財実務はこれまでの「権利保護と活用」という枠組みから、「国家安全保障の基盤」へとその性質を大きく変容させようとしています。

日本の知財専門家(弁理士、企業の知財部、法務担当者)が、今後数年で直面するパラダイムシフトについてまとめました。

1. 特許出願非公開制度の「厳格運用」と実務への影響

高市政権下で最も注視すべきは、経済安全保障推進法に基づく「特許出願非公開制度(秘密特許)」の運用加速です。

これまで「軍事転用可能な機微技術」に限定的だった審査の目が、今後はAI、量子、半導体、極超音速技術といった「デュアルユース(軍民両用)技術」へより広範囲かつ厳格に適用される見込みです。

  • 実務上の留意点: 基礎研究段階にある発明であっても、政府の「特定技術分野」に該当すれば、公開が制限され、外国出願に事前承認が必要となります。知財担当者は、技術の「出口」が民生用であっても、その「性能」が安保基準に抵触しないかをこれまで以上に慎重に評価する体制が求められる。

2.セキュリティ・クリアランス制度の本格稼働

2025年に施行された「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律」は、高市内閣において日本のR&Dの標準装備となります。

  • 国際共同研究の新ルール: 米国や英国との共同開発において、日本の研究者や知財担当者が機密情報にアクセスするための「適性評価」が必須となる。
  • 知財部門の役割: 企業の知財部門は、単なる書面管理だけでなく、情報漏洩防止(データガバナンス)や研究者のクリアランス状況を管理する、高度なコンプライアンス機能を担うことになる。

3.「戦略的不可欠性」を狙う知財ポートフォリオ構築

高市氏が提唱する「サナエノミクス」の核心は、戦略的不可欠性(Strategic Indispensability)の確保です。「日本がなければ世界が困る」というチョークポイント(急所)を技術で握る戦略です。

  • 重点投資分野: 核融合エネルギー、SMR(小型モジュール炉)、宇宙・防衛、次世代AI。
  • 知財戦略の転換: 汎用技術の「数」を追う出願から、特定の重要技術における「標準化」と「クローズド戦略(秘匿化)」を組み合わせた、国家戦略と連動したポートフォリオ構築が推奨されます。政府による強力な財政支援(危機管理投資)も、この戦略に沿ったIPプロジェクトに集中投下されることが予想される。

4. 技術流出防止策の「実力行使」

「みなし輸出」規制の徹底や、サプライチェーン全体を通じた技術漏洩防止(ITT:Intangible Technology Transfer管理)が強化されます。

  • サプライチェーン・オーディット(取引先監査): 特に半導体や重要部材の供給網において、コンポーネント単位での知財漏洩がないか、サプライヤーに対する監査圧力が強まることが予想される。

知財専門家が今なすべきこと

高市内閣の知財戦略は、「グローバルな信頼(Trusted Framework)」を維持するためのコストを要求します。

  • 「デュアルユース」の感度向上: 自社の発明が「兵器」に関わらなくても、そのスペックが安全保障上のリストに該当しないか、法務・開発部門との連携を深める。
  • 海外出願プロセスの見直し: 秘密特許制度による「待機」のリスクを想定し、国際出願(PCT)のタイミングや優先権主張の戦略を再構築する。
  • 官民連携情報のキャッチアップ: 高市政権下では内閣府(経済安保事務局)が司令塔となります。特許庁だけでなく、内閣府が発する最新の「特定技術分野」の更新情報をリアルタイムで把握することが不可欠になる。

「守るべき技術を、国家レベルの盾で守る」。この強力な方針は、日本の知財力のプレゼンスを世界に示す好機であると同時に、実務家にはこれまで以上に責任と専門性が求められるということを認識する必要があります。

AUTM 2026 Annual Meeting に参加します!

恵泉国際特許事務所(Keisen International Patent Office)および、技術移転・知財ライセンシングを専門とするジャパン・テクノロジー・グループ(Japan Technology Group)は、2026年2月に米国シアトルで開催される AUTM 2026 Annual Meeting に参加いたします。本会合には、両組織を代表して矢口太郎弁理士が出席し、大学・研究機関・企業・投資家など、世界各国の技術移転関係者との情報交換および意見交換を行う予定です。

AUTM Annual Meeting は、大学発技術の社会実装、国際的な技術移転、知的財産の活用・収益化を主題とする、実務志向の国際会合です。本会合への参加を通じて、恵泉国際特許事務所およびジャパンテクノロジーグループは、日本の大学・研究機関・企業の皆さまに対する国際的な知財・技術移転支援を、より一層強化してまいります。

AUTM Annual Meeting とは

AUTM Annual Meeting は、AUTM(Association of University Technology Managers)が主催する、大学・研究機関における技術移転(Technology Transfer)および産学連携、知的財産の事業化をテーマとした年次国際カンファレンスです。米国を中心に、世界各国から大学・研究機関の技術移転機関(TLO)、企業の研究開発・オープンイノベーション担当者、スタートアップや投資家、特許・ライセンス・知財戦略の専門家が一堂に会します。

本会合の大きな特徴は、単なる情報共有や事例紹介にとどまらず、実際の技術ライセンス、共同研究、事業化につながる具体的な議論やネットワーキングが行われる点にあります。学術色の強い学会とは異なり、「研究成果をどのように社会に届け、どのように価値へと転換していくか」という実務的視点を重視していることから、大学発技術の活用や国際的な知財戦略を検討する関係者にとって、極めて重要な機会となっています。

AUTMについて

AUTMは、大学・研究機関における技術移転および知的財産マネジメントの専門家によって構成される、国際的な非営利団体です。1974年に米国で設立されて以降、大学の技術移転機関(TLO)を中心に、研究機関、病院、政府系研究所、企業、投資家、知財・ライセンスの専門家など、世界中の多様な関係者が参加する組織へと発展してきました。

現在、AUTM は技術移転分野において最も影響力のある国際団体の一つとされており、大学発技術の実用化・事業化を担う実務家コミュニティの中核的な役割を果たしています。その活動は米国国内にとどまらず、欧州やアジアを含む国際的な連携にも広がっています。

矢口弁理士は、過去この会合に15回以上参加しています。

大学発技術の社会実装を支える AUTM の役割

AUTM の最大の目的は、大学や研究機関で生み出された研究成果や発明を、社会に還元し、経済的・社会的価値へと結び付けることにあります。そのため、単なる知的財産の保護にとどまらず、特許ライセンス、共同研究、スタートアップ創出といった実践的な技術移転活動を重視しています。

具体的には、技術移転実務に関する教育プログラムの提供、契約交渉や評価手法に関する知見の共有、成功事例や統計データの蓄積・公開などを通じて、技術移転の質と効率を高める取り組みを行っています。AUTM は、技術移転を「個別の経験や属人的なノウハウ」に依存させるのではなく、国際的に共有可能な実務知識として体系化する役割を担っています。

AUTM Annual Meeting の実務的な特徴

AUTM Annual Meeting は、AUTM の活動の中核をなす年次イベントであり、教育・ネットワーキング・実務連携のすべてが高度に融合した場です。多数のセッションやワークショップでは、特許ライセンス交渉、技術評価、スタートアップ設立、産学連携の最新動向など、実務に直結するテーマが扱われます。

また、本会合の大きな特徴として、参加者同士の1対1ミーティングや非公式な交流の機会が豊富に設けられている点が挙げられます。オンラインのネットワーキングシステムはAUTM Connect(https://connect-v3.jujama.com/AUTM-2026-Annual-Meeting)と呼ばれるもので、これにより、単なる情報収集にとどまらず、実際の技術導入やライセンス、共同研究へと発展する具体的なネットワークが行われます。AUTM Annual Meeting は、「議論する場」であると同時に、「実務が動き始める場」として位置づけられています。

日本の大学・企業にとっての AUTM の意義

近年、日本の大学・研究機関や企業においても、研究成果の社会実装や国際展開への関心が高まっています。一方で、海外、とりわけ米国や欧州における技術移転の実務や契約慣行は、日本とは異なる点も多く、十分な理解や経験がないままでは円滑な連携が難しい場合もあります。

AUTM Annual Meeting は、こうした国際的な技術移転実務を、現場の当事者同士が直接学び、意見交換できる貴重な機会です。日本の大学・研究機関にとっては、自らの技術を海外でどのように位置付け、活用していくべきかを考える上で重要な示唆を得る場となり、企業にとっては、海外大学の有望技術や連携先を探索する実践的な場となります。

恵泉国際特許事務所およびジャパンテクノロジーグループでは、AUTM への参加を通じて得られる知見とネットワークを、日本の大学・研究機関・企業の皆さまの国際的な知財・技術活用支援に活かしてまいります。

AUTM 2026 参加の目的

恵泉国際特許事務所およびジャパンテクノロジーグループが AUTM 2026 Annual Meeting に参加する主な目的は、国際的な技術移転および知的財産活用の実務動向を把握し、日本の大学・研究機関・企業の皆さまにとって実効性のある支援につなげることにあります。

具体的には、米国および欧州の大学・研究機関における技術移転の最新トレンド、ライセンス契約や共同研究の実務的な考え方、スタートアップ創出を含む研究成果の社会実装モデルについて、現場の実務家から直接情報を得ることを重視しています。また、海外の大学や企業、投資家とのネットワークを構築し、日本の技術や知的財産を国際的に活用するための具体的な連携の可能性を探ることも重要な目的の一つです。

これらを通じて、単なる情報収集にとどまらず、日本の知的財産・技術を取り巻く課題を国際的な視点から再整理し、より実践的で持続可能な技術移転・知財戦略の構築に役立てていくことを目指しています。

AUTM 2026 参加を通じてご提供できるサポート

AUTM 2026 Annual Meeting への参加を通じて得られる知見やネットワークを活かし、恵泉国際特許事務所およびジャパンテクノロジーグループでは、以下のような支援を提供してまいります。

大学・研究機関向けには、海外での活用を見据えた特許戦略や出願に関する助言、欧米企業の持つ技術ニーズの調査、大学発技術の国際ライセンスの支援、権利行使の支援を行います。特に、米国・欧州の技術移転実務を踏まえた、マーケティング、契約や交渉の考え方について、具体的な事例に基づくサポートを重視しています。

企業向けには、米国・欧州・日本の大学や研究機関が保有する有望技術の探索・評価支援、海外大学との共同研究やライセンス交渉における実務サポートを提供します。研究開発戦略と知的財産戦略を一体として捉えた支援を行うことで、実効性の高い技術導入・事業化を目指します。

さらに、技術移転や知的財産の収益化に関するコンサルティングとして、保有特許や研究成果をどのように活用すべきか整理したい場合や、海外展開を前提とした知財戦略を検討したい場合に、国際的な視点からの助言を行います。日本と海外の制度・実務の違いを踏まえた橋渡し役として、具体的かつ現実的な支援を提供してまいります。

現地での情報交換・意見交換について

AUTM 2026 Annual Meeting 会期中、恵泉国際特許事務所およびジャパンテクノロジーグループを代表して参加する矢口太郎弁理士は、大学・研究機関、企業、技術移転関係者の皆さまと、技術移転や知的財産活用に関する情報交換および意見交換を行う予定です。

大学発技術の国際的な活用、海外大学・研究機関との連携のあり方、研究成果の社会実装に向けた知財戦略などについて、実務的な観点から意見を交わす機会としたいと考えております。AUTM の場を通じて、相互理解を深め、将来的な協力関係の可能性を探ることを目的としています。

お問い合わせ

AUTM 2026 Annual Meeting に関するご質問、または本会合で扱われるテーマに関連する事項につきましては、下記よりお問い合わせください。内容に応じて、後日あらためてご連絡させていただきます。


恵泉国際特許事務所>>

ジャパン・テクノロジー・グループ>>

【開催報告】米国特許収益化 × 欧州拠点開設 グローバル知財戦略セミナーを開催しました

2025年9月9日、恵泉グループは東京駅八重洲口のセミナールームにて「米国特許収益化 × 欧州拠点開設 グローバル知財戦略セミナー」を開催いたしました。会場・オンライン合わせて25名の参加者を迎え、盛況のうちに終了することができました。ご参加いただいた皆さまに心より御礼申し上げます。

第1部:米国特許収益化の最前線

午前の部では、米国訴訟弁護士・特許弁理士である Josh Slavitt 氏 をメインスピーカーに迎えました。訴訟ファンドを活用して、弁護士費用を自己負担することなく米国特許を武器にする方法について、最新の実務と実例を交えて詳しく解説いただきました。

さらに、熊本大学の飯田雅宏教授からは、ご自身が訴訟ファンドを活用して日米で権利行使を行い、和解に至った経験が紹介され、参加者にとって非常に具体的で説得力ある学びの時間となりました。

第2部:欧米拠点を基盤にしたグローバル知財戦略

午後の部は、恵泉グループの欧州拠点(ミュンヘン)の開設を記念したパネルディスカッション。

矢口太郎(日本・米国弁理士/恵泉グループ代表)と、関口一哉(欧州特許弁理士/ミュンヘンオフィス代表)が登壇し、モデレーターの上條由紀子教授(長崎大学・弁理士)の進行のもと、欧米出願の実務上の注意点やUPC時代の欧州戦略、そして日米欧三極体制による支援のあり方について議論が交わされました。

参加者の声

参加者からは、

「米国での訴訟資金調達の実態を具体的に知ることができた」

「欧州のUPC時代を見据えた戦略に気付きを得られた」

「日米欧をカバーする体制の意義を理解できた」
といったコメントを多数いただきました。

今後に向けて

今回のセミナーを通じ、「米国で攻める」「欧州で守る」という両輪を組み合わせたグローバル知財戦略の重要性が改めて浮き彫りになりました。恵泉グループは、東京・フィラデルフィア・ミュンヘンの三拠点を活かし、日本の発明者・企業の皆さまを引き続きサポートしてまいります。

特許の出願、知財戦略に関するお問い合わせは、恵泉国際特許事務所までお問い合わせください!

米国仮出願のすすめ!

アメリカでは、ほとんどの大学やスタートアップ企業が仮出願制度を利用して最初の特許出願をしている、ということをご存知でしょうか?

私が定期的に情報交換しているアメリカの某州立大学の技術移転担当者によると、TLO(技術移転オフィス)が取り扱う特許出願の90%以上が仮出願からスタートするということでした。ちなみに、この大学は特許のライセンス収入ラインキングで常に全米トップ10以内に入っていて、アメリカでも大学の技術移転の成功事例として頻繁に取り上げられている大学です。

仮出願とは?

米国仮出願(U.S. Provisional Application)とは、出願日から1年以内に本出願を行うことを前提に先願の地位を得られる米国特有の制度です。特許出願の準備が整っていなくても簡易な出願方式で文字通り仮の出願ができ、さらに、優先権の基礎となる出願として「特許ペンディング」の地位を得ることができるというものです。

仮出願の主なメリット

・早い:いち早く出願日を確保できます。パリ条約に基づき米国仮出願を基礎とする他国への優先権主張出願が可能となります。

・安い:本出願に比べて安価で出願できます。1件あたり最低200ドル〜です。

・簡単:簡易な出願方式、かつ日本語で出願できます。クレームの記載が必要無く、明細書としての記載方式を整える必要がありません。例えば、研究報告書や論文、PPTスライドをそのまま仮出願できます。

仮出願の戦略的な活用

では、技術移転や知財の活用という観点から見た場合、これらの仮出願のメリットをどう活かしたら良いでしょうか。典型的な仮出願の活用方法は、潜在的な特許権の優先日を確保しつつ、本出願までの1年間の猶予を利用して発明のプレマーケティングやスポンサー探しをするという使い方です。つまり、発明者または権利者である大学は、仮出願を使うことで特許出願(本出願)に必要な手続きと主要な特許出願費用を先送りしつつ、自らの発明の市場性や商業的な実行可能性の検証が可能になります。

私たちJTGが実践し、お客様に提案しているのは、仮出願+プレマーケティングをあらかじめ技術移転活動に組み込むという戦略的な仮出願の活用です。仮出願後の1年間をプレマーケティング期間として、あまり費用をかけずに発明の有効性や研究開発の方向性を見極め、その結果に基づき特許戦略の立案や修正、さらに本出願の可否判断をするのです。このプレマーケティングの結果、将来のライセンス先の特定や共同研究資金の調達などの具体的な成果につながる場合もあります。一方、出願の断念や先送り、研究計画の大幅な見直しなど特許出願や技術移転活動をペンディングせざるを得ない結果となることも多々あるのも実情です。いずれの場合も、本出願前の早い段階で研究開発や技術移転戦略において有効な情報を収集し、市場性や第三者による客観的な評価に基づく意思決定を可能にする、という点において仮出願は非常に有効な手段であると思います。

アメリカでは成果が出ている!

AUTM(大学技術管理者協会)が実施したアメリカの大学187校を対象としたライセンシング調査*によると、2014年〜2018年の5年間で、毎年平均約11,000件の仮出願がなされ、この間の仮出願からの特許権取得の割合は約67%という結果が報告されています。また、2018年のデータを見ると、ライセンス収入の平均は1校当たり約16億円となっており、これら187の大学から約1000社の新規のスタートアップが起業しています。積極的かつ有効に仮出願を利用しているアメリカの大学は、ライセンス収入と新規のスタートアップ数という技術移転活動のKPI(重要業績評価指標)においても、優良な数字をあげてしっかり成果にもつながっているということがわかります。(参考:日本の主要国公私立大学を含む学術研究機関109機関の2018年度のライセンス収入の平均は、約0.33億円/1機関です。)

仮出願のすすめ!

日本においても、アメリカ含む国際出願を前提とした発明において仮出願を活用する事例が増えてきています。将来的にグローバル市場に向けた事業化や起業を目指すという発明家や起業家、技術開発型企業の方々、国際的な技術移転を視野に入れた発明ポートフォリオを持つ大学の知財部や技術移転担当者の方々は、この仮出願の活用を今一度検討してみてはいかがでしょうか。

仮出願の活用についてご興味がある方は是非お問い合わせください。私どものこれまでの経験や専門性を踏まえて、お手伝いができることがあるかと思います。また、ご質問やご意見などありましたら是非ご連絡ください。

米国仮出願制度を活用した特許戦略により、革新的な研究開発が促進され、知財活用の道が更に拡がることを期待しつつ、今回はこの辺りで失礼します。

・お問合せやご質問はこちらです。

・Keisen Associatesの米国仮出願サービスはこちらです。

*AUTM FY2018 US Licensing Survey

COVID-19パンデミックとテクノロジー

日本でも非常事態宣言が出されるに至った新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック。感染者数は世界で180万人を超え(4月13日現在)、多くの生命が奪われる今世紀最大のパンデミックになっている現実に驚愕するばかりです。ちなみに、新型コロナウイルスの名前は「SARS-CoV-2」、「COVID-19」は感染症の名前(病名)です。

”Social Distancing(社会的距離)”と“Stay Home(外出自粛)”の日常化という生活の変化、そしてそれによる”Working from Home(在宅勤務)”の普及が半強制的?にもたらされ、パンデミック後の私たちの働き方にも確実に大きな影響を与えるのではないかという予感がしています。将来歴史を振り返った時に 、2020年という年がある意味ライフスタイルのパラダイムシフトが起きた年として記録され、私たちの記憶にも明確に刻まれているのではないかと思わずにはいられません。

さて、ご存知のように歴史上には数多くのパンデミックが人類を襲ったことが記録されています。記憶に新しい所ではH1N1新型インフルエンザでしょうか、、。過去のパンデミックと現在進行中のCOVID-19パンデミックとの違いは何か?一つは、グローバル化が急速に進展したことによって世界中に一気にウイルス感染が拡大する環境が生まれたということ。さらに、もう一つ過去の事例とは大きく異なる点は、テクノロジーの発達です。スマートフォンの普及、AIやビッグデータ、IoTの実用化など近年の技術トレンドが今回のパンデミックにおいて、例えば医療機関での診断や治療、政府の公衆衛生機関での感染拡大の予防などに活用されています。

そこで今回は、現在進行中のCOVID-19パンデミックに係る事象から、パンデミックにおけるテクノロジーの活用について、モニタリング、サーベイランス、ディテクションという切り口で整理してみました。

1)モニタリング

IoT技術の発達とその普及により、世界の主要な公衆衛生機関においてほぼリアルタイムに近い形でウイルス感染症拡大の様子が正確にモニタリングされ、その情報を集約し公開するプラットフォームも提供できるようになりました。代表的なものは、皆様もチェックしているかも知れませんが、、、”Worldometer“とJohns Hopkins University’s Center for Systems Science and Engineeringが提供する“COVID-19 Map”、です。

Worldometerは、COVID-19の感染状況をいち早く世界に伝えることを目的に、システム開発者と研究者、さらにボランティアによって運営されています。各国政府が発表する公式データを直接収集し、さらに各国のローカルメディアの記事からも情報収集することで、データの速報性と正確性を保っているということで、英国政府などの政府機関、ファイナンシャルタイムズやニューヨーク・タイムズなどの主要メディアの公式発表データとして採用されています。

Worldometer https://www.worldometers.info/coronavirus/

一方、Johns Hopkins Universityが提供するCOVID-19 Mapは、米国CDC、WHO、欧州CDPC、中国CDCなど感染症に関わる公的機関から直接データを収集し、感染者数、死者数などの詳細なデータを見やすくマッピングしたダッシュボードが特長です。非常にわかりやすいインターフェースなので、私も定期的にチェックしています。

Johns Hopkins University “COVID-19 Map” https://coronavirus.jhu.edu/map.html

Johns Hopkins University https://coronavirus.jhu.edu/map.html

2)サーベイランス

ウイルス感染症拡大の予測や、予測に基づく対策のための情報提供に貢献しているのが、ビッグデータを活用したサーベイランス技術です。ウイルス活性のモデリング研究のサポートや、感染症予防対策を加速させるために、各国政府の医療政策担当者の的確な判断を促す情報の提供にビッグデータが活用されています。

例えば、グローバルな人の動きをトラベルという観点からデータ化して情報提供しているOfficial Aviation Guide (OAG)。また、感染拡大が真っ先に始まった中国では、Tencentによるモバイル情報を活用した位置情報サービスの活用や武漢市の交通局のデータ活用などの事例があります。これらは、ある特定地域の人の動きからウイルス感染の状況(=人の動き)をリアルタイムにトラッキングし、そのデータを感染拡大の予測に活用しています。さらに、つい先日AppleとGoogleがCOVID−19の濃厚接触者を検知して通知する技術を共同開発するとのプレススリリースがありました。これはスマートフォンのBluetooth機能を活用して、ウイルス感染者が見つかった場合、本人の同意を得た上で過去14日間の濃厚接触の可能性があった人々に通知するという仕組みのようです。この2社が連携することで全世界のスマートフォン所有者のほぼ全員を網羅できることになるので、今後の実用化に期待がかかります。

Official Aviation Guide (OAG) https://www.oag.com

Tencent Combat COVID-19 https://www.tencent.com/en-us/responsibility/combat-covid-19.html

Apple & Google Partner on COVID-19 contact tracing technology https://www.apple.com/newsroom/2020/04/apple-and-google-partner-on-covid-19-contact-tracing-technology/

公的機関によるサーベイランス技術の活用事例としては、WHO(世界保健機構)の事例があります。WHOが持つ様々な情報ソースから集まるデータを集約して解析することで、今後感染症の拡大が懸念されるアフリカでの感染予防に必要な情報をアフリカ各国政府に提供し始めています。また、公衆衛生教育とコミュニケーションという切り口でサーベイランス技術を活用しているシンガポールの事例は、日本のメディアでも取り上げられているので知っている方も多いかと思います。シンガポール政府は、SNSプラットフォームのWhatsAPP(Facebook)と提携して、政府からの感染症に関わる情報を国民一人一人に迅速且つ的確に届ける仕組みを確立しています。

Gov.sg WhatsApp Subscription https://www.form.gov.sg/#!/5e33fa3709f80b00113b6891

3)ディテクション

「Test, Test, Test」と、片っ端からPCR検査をするように呼びかけたWHOテドロス事務局長の声明を覚えておられますでしょうか?感染拡大を防ぐには、感染者をいち早く見つけて隔離することだと言う提言だったわけですが、この感染者の発見と診断の加速に活用されている技術が、 AI・ディープラーニング技術です。

人類にとって全く未知のウイルスである新型コロナウイルスを正確且つ低コストで検査するというニーズに応えることには困難も伴います。例えば、最初に感染が拡大した中国の武漢市では特に一般病院において、当初はテストキットが不足しており、さらに、テストしても普通のインフルエンザとCOVID-19を正確に区別するだけのスキルを持った人材の不足から大混乱を起こしたそうです。同様な事態が想定されるのが、公衆衛生や医療環境が未だ発展途上であるアジア諸国や中東、アフリカの国々です。これらの国々では、さらにPCR検査や抗体検査のコストが高いことも大きな障害となっているようです。

このような状況において、検査の代替となり得る診断方法やスクリーニング手法が求められていました。そこで、注目されたのがディープラーニングとAI技術です。COVID−19が最初に広がった中国では、陽性患者に関する膨大なデータが蓄積され始めており、このデータを診断に使えないかという試みが既になされています。従来は、肺癌の診断用に開発されたAIアルゴリズムをCOVID−19用に最適化して、陽性が疑われる肺炎症状を発症している患者の診断に活用する試みがなされています。患者の初期的なスクリーニングでの実証試験では、特にオーバーワークとなっている医療従事者の診断業務の負荷軽減に役立っていると報告されています。北京にあるスタートアップInfervision社により開発されたこの診断技術は、中国国内の34の病院に導入され、既に32,000件以上の診断に活用されています。

Infervision (Beijing) Co., Ltd https://global.infervision.com

さて、今回は技術の活用という切り口でCOVID-19パンデミックを見てみました。終息の兆しが全く見えない現状にあって、ワクチンや治療薬の実用化はもちろんですが、今後も様々な新技術の開発や既存技術の応用によって、一人でも多くの命が救われることを祈念し、一日も早いパンデミックの終息が訪れることを期待しつつ、閉じたいと思います。

大学が学生起業家を育成! 『Lassonde Entrepreneur Institute (University of Utah)』訪問記

 2020年が始まった早々の1月上旬、冬真っ只中のアメリカ・ユタ州ソルトレイクシティにあるユタ大学を訪問した。目的は、アメリカ国内でも注目されている大学が学生向けに起業家プログラムを提供する『Lassonde Entrepreneur Institute』を見ることである。どちらかというと田舎、とも言えるユタ州の州立大学が一体どんな取り組みをしているのか?という正直なところ半信半疑の中での訪問であった。

 ユタ大学の『Lassonde Entrepreneur Institute』は、同大学のDavid Eccles School of Business(ビジネススクール)との連携で2001年にスタートした米国内でも有数の学生向けの起業家育成プログラムであり、地域のインキュベーションハブである。このプログラムが凄いのは、その実績。2019年度1年間にこのプログラムに参加した学生は3400人、そのうち起業準備中のスタートアップは500を超える。

 プログラムには、ワークショップやネットワーキングイベント、事業計画コンペティション、スタートアップサポート、イノベーションプログラム、さらにプログラム独自の奨学金の提供などが含まれる。また、この機関の大きな特長は、”Lassonde Studios“と呼ばれる5階建の建物である。1階が広大なコミュニティスペースとなっており、2階から5階までの4フロアーは学生の居住スペース、いわゆる学生寮となっている。各階100名が定員で合計400名の学生が寝泊りしながら、起業家プログラムを学ぶことができる。

 このプログラムの創始者であり大学の学長補佐を兼任する当InstituteのExecutive DirectorであるTroy D’Ambrosio氏によると、この“Lassonde Studios”への入寮希望者は毎年1000人を超えており、厳正な審査の上入寮者を選抜しているとのこと。1Fにある”Neeleman Hanger”と名付けられたコミュニティスペースには、自由にネットワーキングやミーティングができるラウンジとコワーキンスペースの他、学生がプログラムの一環として運営するカフェやフードトラックがあり、入寮者だけでなく学生であれば誰でも行き来できるオープンなスペースとなっていた。特に目を引いたのは“Makers Space”と名付けられた、試作室。様々な工具や3Dプリンター、レーザーカッターなど、物づくりで起業を目指す学生たちが自由に試作や実際の製品作りができる設備が整っている。ここで製作したバックパックの試作品を基にクラウドファンディングで資金調達して起業したスタートアップ事例の紹介もあった。

 Instituteが提供する”FOUNDERS“というプログラムを通じて、学生はこのStudiosで生活しつつ、ビジネススクールが提供する起業家プログラムを受講できる。プログラム参加者は奨学金を受けつつ、起業家プログラムの単位を取得できるようになっている。また、”GetSeeded“は、ユタ大学の学生であれば誰でも申込みが可能な毎月実施される起業資金の助成プログラムである。申請した学生は数回に及ぶピッチコンテストを通して評価され、起業資金として最大$2,500を獲得できる。このプログラムは地元ソルトレイクシティの銀行Zion Bankがスポンサーとなり資金提供している。

 「今でも、全米中から見学者が絶えない」と語るD’Ambrosio氏。彼のリーダーシップのもと、Instituteは2012年からの7年間で$132Million(約145億円)の資金を獲得している。元々は大手製薬企業のビジネスマンであった彼は、「プログラムを永続させるためには大学施設であってもビジネスモデルが必要」との考えから“Lassonde Studios”を建設したという。今では、400名分の年間の寮費でスタッフの人件費を含むこの施設全体の運営費を賄っているとのこと。

 「Live, Create, Launch(生活し、創造し、立ち上げる)」というキャッチフレーズ通りに、これからもこのユタの地から多くの学生起業家たちたちが巣立って行くことを期待しつつ、短い訪問を終え、、空港に向かった。

Lassonde Entrepreneur Institute: https://lassonde.utah.edu

Lassonde Studios: https://lassonde.utah.edu/studios

欧米には負けない⁉︎ オーストラリア・イノベーション・プログラム

 JTGは、オーストラリア大使館商務部と貿易投資促進庁(オーストレード)と連携して、日−豪間の共同研究や産学連携を促進する「オーストラリア・イノベーション・プログラム」を始めました。日本の窓口となるJTGは、このプログラムを通じて、オープンイノベーション推進支援サービスを通じた連携先として、オーストラリアの大学やスタートアップを有望な選択肢として推奨します。

 オーストラリアのトップクラスの学術研究機関やスタートアップとの共同研究・開発プロジェクトの立ち上げ、さらにその後の研究体制構築や政府機関の助成金獲得支援など、一連のプロセスを活動の一環としてサポートします。

 オーストラリアが有する、特に、ヘルスケア・医療、環境、IT/ICT、IOT技術などの優れた研究資源は、欧米に遜色ない科学技術成果を持ち、近年日本企業との数多くの共同研究事例が生まれてきています。